カール大帝ゆかりの世界最高峰白ワイン「コルトン・シャルル・マーニュ」と

コート・ド・ボーヌ唯一の赤の特級「コルトン」を産み出すコルトンの丘

【コルトン 〜Corton〜】

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 コルトンの丘[La colinne de Corton]はベレー帽のように頂上に森を頂く周囲から独立した標高383mの小山で、コート・ドールを北のコート・ド・ニュイと南のコート・ド・ボーヌを分ける位置にあります。

 なお、[コルトンの丘]のフランスの地図での仏語表記は[Bois de Corton=コルトンの森]となっているものがほとんどですが、これは頂上付近のベレー帽をかぶったような森林地帯を指しており、コルトン丘陵そのものは文字通り、[La colinne de Corton=コルトンの丘]と現地では呼ばれています。これはディジョンの大学で醸造学研究で数年間生活をされていたお客様からのご指摘により、加筆いたしました。

   コルトンの丘の裾野は、ラドワ・セリニー村、ペルナン・ヴェルジュレス村、アロース・コルトン村にまたがっており、この3村のみがコルトンとコルトン・シャルルマーニュを名乗ることができます。

 白ワイン中心のコート・ド・ボーヌにおいては、ここコルトン丘陵においてのみ、赤のグラン・クリュが認められています。ピノ・ノワールの赤が特級コルトンを名乗れる畑の大部分がシャルドネを植えて白を造れば特級コルトン・シャルルマーニュを名乗ることができますが、日照と土壌の関係からか、コルトン丘陵の東から南斜面で赤ワイン、南から西斜面で白ワインが主に造られています。

  下にコルトン丘陵の葡萄畑の概略地図を掲載していますが、これはブルゴーニュ・ラヴァーのバイブルである「ブルゴーニュワイン大全」等の関係資料に基づき、当店店長がエクセルで描画したオリジナル地図ですので、縮尺(畑の広さ)は正確ではありませんが、畑の位置関係はよく分かるとおもいますので参考にして下さい。

  約160haの特級畑コルトンには多くの小区画(リューディ)がありますが、コルトンの特級規定は他の村と異なり、特級の区画内なら畑名にコルトンがつけられます。例えば、「王のクリマ」を意味する最高の銘醸畑「コルトン・クロ・デュ・ロワ」等の場合です。

 実はコルトン丘陵の三つの特級畑コルトン、コルトン・シャルルマーニュ、シャルルマーニュをめぐっては、裾野に所在する三つの村が1920年以降幾度にもわたって呼称認定の権利で訴訟合戦を繰り返しており、その結果とても特級とは言えないような二流の畑も特級に昇格し、面積が拡張しています。そのため専門家の中には、特級畑の格付けを一からやり直すべきだとの意見もあるほどです。

  参考までに、コルトンの表記だけであれば、複数特級畑の葡萄をブレンドした可能性がありますが、定冠詞付きのル・コルトンの場合は丘の東側斜面の最頂部に位置する銘醸畑の葡萄のみで造られた特級赤となります。従って、赤の特級コルトンの場合は、一般的には特定のクリマ名の付いたものの方が、上質と言え、上述の「コルトン・クロ・デュ・ロワ」を筆頭に、「ル・コルトン」、「コルトン・レ・ブレッサンド」、「コルトン・レ・ルナルド」、「コルトン・ロニエ」、「コルトン・ペリエール」等コルトン丘陵の東南斜面に位置する畑産が優れたグラン・クリュと言えるでしょう。

  また、白の特級コルトン・シャルルマーニュの場合は、丘の南西斜面に位置するル・シャルルマーニュの畑が最上と言え、「ル・シャルルマーニュのコルトン・シャルルマーニュ」こそがブルゴーニュ愛好家の憧れです。(但し、赤のコルトンと異なり、コルトン・シャルルマーニュには、小区画名を記載することは禁止されていますので、このような表記のものはありません。念のため)この区画にピノ・ノワールを植えれば特級コルトンになりますが、ル・シャルルマーニュは白に適したテロワールのため赤を造る人は少ないようです。また西斜面のアン・シャルルマーニュの区画もシャルドネに適した優れた畑ですが、1966年に北西斜面の区画まで昇格して拡張されており、造り手を含め玉石混交とされることから評価がやや下がります。このあたりにコルトン・シャルルマーニュがモンラッシェと双璧の世界最高の白ワインと言われるものの、実際にはモンラッシェよりやや低い評価をうける原因があるように思われます。

 更に、AOCコルトンを分かりにくくしている理由の一つに[特級コルトン・ブラン]の存在があります。

 コルトンの特級白ワインと言えば、コルトン・シャルルマーニュですが、実はコルトンにはもう一つ特級白ワインがあり、それが「コルトン・ブラン」です。ブルゴーニュ最高峰の白のグラン・クリュのコルトン・シャルルマーニュとコート・ド・ボーヌで唯一の赤のグラン・クリュのコルトンを生み出すAOCコルトンの多くの特級畑は、ピノ・ノワールを植えれば特級コルトン、シャルドネを植えれば特級コルトン・シャルルマーニュとなりますが、コルトン・ブレッサンドなどの赤の区画にシャルドネを植えた場合には、コルトン・シャルルマーニュを名乗ることはできず、[特級コルトン・ブラン]となります。

 コルトンとコルトン・シャルルマーニュが複雑な規則でモザイク模様のように入り乱れ、しかもコルトン・ブランまであり、ヒュー・ジョンソンをして、『不思議な国のアリス』と言わしめたコルトンの丘ですが、通常、コルトン丘陵の東側から南側に位置するクロ・デュ・ロワ、レ・ブレッサンド、レ・ルナルド等で赤ワイン、南側から西側で白ワインが造られ、しかも赤の優良区画では小区画名(ブレッサンドやレ・ルナルド等)を付けることができるため、ここにシャルドネを植える生産者は少なく、従って、コルトン・ブランは非常に珍しいワインで、中でも赤の優良区画レ・ブレッサンドに植えられたシャルドネを主に造るドメーヌ・シャンドン・ド・ブリアイユのコルトン・ブランが最も有名で、秀逸なものです。

 

 ところで赤の特級コルトンについて、上述のことを立証するようなニュースが2008年にありました。

 あのドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社(DRC)が2009年から、「コルトン・クロ・デュ・ロワ」0.57ha、「コルトン・レ・ブレッサンド」1.19ha、「コルトン・レ・ルナルド」0.51haのコルトン最上の三つの銘醸畑をプランス・ド・メロード家から取得して、特級コルトンを新たにリリースすることが発表されたのです。

 これは2008年にベルギー貴族家出身のプランス・フローラン・ド・メロード氏の死去に伴い、名門ドメーヌが分割され、同ドメーヌの看板ワインであった上述の三つの銘醸畑合計2.27haをDRCが譲り受け、栽培・醸造にあたることになったのです。

 ちなみに、2009年が初ヴィンテージのDRCのコルトンは三つの銘醸畑の葡萄をブレンドしたものですが、価格は以前のプランス・ド・メロードのコルトンの約10倍にもなっています。「さすがはDRC」と言ったところですが、換言すればDRCがその畑と古樹の葡萄樹の価値を認めたプランス・ド・メロードのバック・ヴィンテージのコルトン(3つの銘醸畑は単独で仕立てられていた)は、大変お買い得と言えますが、売却により、2008年が最後のヴィンテージとなり、もはや生産されることのない幻のコルトンとなってしまい、下の写真の通り、DRCコルトンのエチケットの中にのみ、名門ドメーヌの名を残しています。

(*注) 上述のプランス・ド・メロードの3つの畑については、DRCが取得ではなく、30年間の賃貸契約との記事もありますが、当HPの記述は2012年11月発行のブルゴーニュワイン大全(ジャスパー・モリス著)記載の内容に基づいています。

  しかし、コルトンAOCで日本で最も有名なワインは白ワイン「コルトン・シャルルマーニュ」でしょう。775年までこの地に畑を所有していた神聖ローマ帝国カール大帝をクリマ名の由来とする栽培面積62.93haの特級畑コルトン・シャルルマーニュは、ピュリニーとシャサーニュ両村で造られるモンラッシェと並ぶ世界最高峰の白ワインとして有名です。

   このコルトン・シャルルマーニュのスペシャリストとして名高いのがモリニエール伯爵が運営するドメーヌ・ボノー・デュ・マルトレイです。ペルナン・ヴェルジュレス村に本拠を置くこのドメーヌは、コルトン・シャルルマーニュの小区画(リューディ)である「アン・シャルルマーニュ(En Charlemagne)」内に11haを分割されることなく保有しています。2010年1月に雑誌「ワイナート」の表紙を飾ったことで日本でも有名になりました。

 また、ショレ・レ・ボーヌに本拠を置くドメーヌ・トロ・ボーのコルトン・シャルルマーニュは、コルトンの丘東斜面の最も標高の高いル・コルトンの区画のもので、僅か0.24haの極小畑から造られるコルトン・シャルルマーニュは、レモン、グレープフルーツ、ハチミツのアロマを持ち、ミネラルの緊張感とともに果実の甘さも感じられる絶品ですが、生産本数が1000本程度と少ないため、真っ先に市場から消えてしまう稀少人気ワインです。

 

 もう一人ユニークな生産者がいます。それはシャンボール・ミュジニーに本拠を置き、今世界で一番エレガントなワインの造り手として大人気のドメーヌ・ジョルジュ・ルーミエです。

 赤の造り手として有名なジョルジュ・ルーミエですが、ペルナン・ジュレス村に、僅か0.2haの極小のコルトン・シャルルマーニュの畑を所有しており、ここから希少なコルトン・シャルルマーニュを産み出しています。その生産量の少なさから、ルーミエが作る「レアモノ」としても人気の高いワインですが、赤の最高峰の造り手が「シャルドネ」をどのように仕立てたのかも興味があります。

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