世界に冠たる白ワイン「モンラッシェ」を産むのが、ピュリニー・モンラッシェとシャサーニュ・モンラッシェの二つの村です。世界最高峰の白ワイン「モンラッシェ」は、小説「三銃士」で有名な文豪デュマ(1802〜1870)が、「脱帽し、跪いて飲むべし」と称えたことで有名です。
フランス語では、” Il faut deguster le montrachet à genoux et tête découverte,affirmait 〜 Alexandre Dumas〜”という台詞です。
モンラッシェの評価がこれほどまでに高くなったのは、18世紀になってからで、1787年にフランスのワイン畑を視察し、格付けを記した、かのトーマス・ジェファーソン(アメリカ独立宣言の起草者で、第3代米国大統領、当時は駐フランス公使)によれば、当時ブルゴーニュで最高のワインは、シャンベルタン、ロマネ(今のロマネ・コンティ)、クロ・ド・ヴージョ、そしてモンラッシェであり、これら四つのワインの価格は同じだったそうです。
また、フランスワインの格付けと言えば、1855年ナポレオン3世の命により定められた「ボルドーの格付け」が有名ですが、ブルゴーニュでは同じ年に、その著書「コート・ドールの葡萄と銘酒の歴史と統計」によるディジョン大学の「ラヴァル博士の格付け」が有名です。この格付けは個人によるものではありますが、後のブルゴーニュのAOC制度に影響を与えたほど評価の高いものです。
この「ラヴァル博士の格付け」の中で、シャンベルタンとロマネ・コンティは、テッド・ド・キュベ(特級)ですが、モンラッシェは唯一テッド・ド・キュベ・エキストラという特別な称号を与えられており、これ以降モンラッシェこそがブルゴーニュ最高のワインであるとの評価が定まり、冒頭のあの文豪デュマの言葉となったのでしょう。
モンラッシェ(Montrachet)とはフランス語の”禿山”の意味ですが、石灰岩と泥灰岩が交互に重なるこの禿山の土壌は、灌木や雑草が生えるだけの痩せた不毛の地でした。この土地から世界最高の白ワインが生まれるとは不思議な気がしますね。
特級畑モンラッシェは、この”禿山”「ラッシェ山」の中腹にピュリニー・モンラッシェと隣のシャサーニュ・モンラッシェにまたがって広がるクリマで、ピュリニー側が面積4.01ha、シャサーニュ側が面積3.98haです。二つのモンラッシェの違いは、ピュリニー側の区画が定冠詞のつかない「Montrachet」、シャサーニュ側の区画が定冠詞がつく「 Le Montrachet」となります。
特級畑モンラッシェの周辺にはシュヴァリエ・モンラッシェ、バタール・モンラッシェ、ビアンヴニュー・バタール・モンラッシェ、クリオ・バタール・モンラッシェの秀逸なモンラッシェ特級群の畑があります。グーグルの航空写真を基に、特級畑モンラッシェとその周辺のモンラッシェ特級畑群の位置を掲載していますので、下の概略図と併せてご覧下さい。
下の図表は、特級畑モンラッシェの区画図及びその周辺の特級畑の概略図を示したものです。これはブルゴーニュ・ラヴァーのバイブルとも言える「ブルゴーニュ大全」のデータを基に、店長がエクセルで描画したものですので、縮尺(畑の大きさ)は正確ではありませんが「偉大な畑モンラッシェ」とその周辺の珠玉のモンラッシェ特級畑群の理解の参考になると思います。上のグーグル航空写真と併せてご覧いただければ各畑の位置がよりお分かりいただけると思います。
区画図を見てお分かりの様に、モンラッシェの畑を多く所有するのは、筆頭のマルキ・ド・ラギッシュ、第2位のバロン・テナール、第4位のコント・ルノー・ド・ボーカロンといった貴族出身者です。(マルキ=Marquis=侯爵、バロン=Baron=男爵、コント=Comte=伯爵ですから所有者の名前を見れば貴族出身とすぐに分かります)
彼らはほとんどの収穫をネゴシアンに売っていますので、モンラッシェは、ネゴシアンのワインを多く見かけるアペラシオンです。
優れたモンラッシェの生産者で有名なエティエンヌ・ソゼ、ジョセフ・ドルーアン、オリヴィエ・ルフレーヴ等は畑を所有していないことから、上述の貴族の畑から葡萄やマスト(果汁)を購入して、モンラッシェを造っています。
貴族が所有する畑の区画は優れた場所にあり、かつ面積も広いことから品質が非常に安定しているという長所があります。
モンラッシェの地質は、ジュラ紀バトニアンのもので、上部と下部では地質が異なることから、東西方向の斜面に沿った縦長の区画の方が二つの地層を含むことからより複雑なモンラッシェが産まれると理論的には考えられていますので、最高峰生産者が、この優れた貴族の畑の葡萄を購入して造る”ネゴシアンものの”モンラッシェは、非常に秀逸なものとなります。
具体的に一例をあげると、エティエンヌ・ソゼは、ドメーヌ・バロン・テナールからの葡萄を使って約1200本のモンラッシェを造りますが、同じ葡萄を使うドメーヌ・バロン・テナールのモンラッシェとは品質・価格に雲泥の差があります。エティエンヌ・ソゼの当主ジェラール・ブドー氏の一流醸造家としての正に面目躍如といったところです。
一方、自分の所有する畑で、自分で育てた葡萄からワインを造る”ドメーヌものの”モンラッシェは、大変魅力的ですが、畑の面積が非常に極小なものが多いことから、品質の安定が難しく、また極小の畑からは深遠さや複雑さに欠けるワインとなりがちです。
やはり、ドメーヌものでは、D.R.C、ドメーヌ・デ・コント・ラフォン、ドメーヌ・ラモネが素晴らしく、三大モンラッシェと言えるでしょう。
ピュリニー・モンラッシェ及びシャサーニュ・モンラッシェの最高峰生産者のドメーヌ及びワインの詳細については、下の写真をクリックして、どうぞ。
【ピュリニー・モンラッシェ】
←写真をクリック
特級畑モンラッシェを中心とする地図は前掲の通りですが、ピュリニー・モンラッシェ全体の葡萄畑の広域図を下に掲載します。こちらの地図も、店長がエクセルで描画したものですので、縮尺(畑の大きさ)は正確ではありませんが、ピュリニー・モンラッシェの17の一級銘醸畑の場所やモンラッシェを始めとする特級畑との位置関係等の理解の参考になると思います。
この地図を見てお分かりのように、ピュリニー・モンラッシェ村の最南部にあるモンラッシェ特級群から、帯状に横に広がり、北に隣接するムルソー村の一級銘醸畑ペリエールに至る標高250m〜300mのベルト地帯がピュリニーの秀逸な一級畑となっています。また、村名格ながら特級畑バタール・モンラッシェとビアンヴニュー・バタール・モンラッシェの直下に隣接するレ・ザンセニエールは、特級のポテンシャルを持つ畑として有名です。
【シャサーニュ・モンラッシェ】
←写真をクリック
特級畑モンラッシェを中心とする地図は前掲の通りですが、シャサーニュ・モンラッシェ全体の葡萄畑の広域図を下に掲載します。
こちらの地図も、店長がエクセルで描画したものですので、縮尺(畑の大きさ)は正確ではありませんが、シャサーニュ・モンラッシェの19の一級銘醸畑の場所やモンラッシェを始めとする特級畑との位置関係等の理解の参考になると思います。