ロワン川が造った扇状地の左右に広がるアペラシオン

"ブルゴーニュ通"が探し求めるコストパフォーマンスに優れたワインの宝庫

【サヴィニー・レ・ボーヌ 〜Savigny-les-Beaune〜】

 サヴィニー・レ・ボーヌ村は、高速道路を挟んでボーヌの北西に位置しています。ここでの葡萄栽培の歴史は古く、947年にはフランシュ・コンテ地方のブザンソン司教がこの地に畑を所有したことが記録に残っています。

 下のブルゴーニュワイン委員会作成の地図の通り、サヴィニー・レ・ボーヌの葡萄畑は村の中央を流れるロワン川が造った扇状地の左右に広がっており、アペラシオン全体の地形は東に向かって大きく開けた半円形の劇場のような形をしています。

 スイス人作家マルセル・ルッフが、サヴィニー・レ・ボーヌのワインを「香り高く、うつろいやすい魂を持った情熱あふれるワイン」と表現したように、サヴィニー・レ・ボーヌは立地の良さや質の高さで最初に名前が挙がる地域ではありませんが、しばしば「難しいアペラシオン」あるいは「謎の多いアペラシオン」とも言われ、”ブルゴーニュ通”にとっては「コストパフォーマンスに優れたワインの宝庫」です。

 「ブルゴーニュワインがわかる」の著者マット・クレイマー氏は、その理由を「ありとあらゆる土壌を持ち、日照も南東向きから北西向きまであり、しかもロワン川によって分けられた左右両岸斜面からは、その違いに目をみはるようなワインができるため」とし、「今日最もお買い得なブルゴーニュは、サヴィニー・レ・ボーヌの赤と白」と記しています。

 サヴィニー・レ・ボーヌの知名度はそれほど高くはありませんが、そのアペラシオンは広大で、葡萄作付面積は350haあり、特級畑こそありませんが、一級畑の数は22面で、合計面積は142.25haもあり、全葡萄畑の4割を占めています。

 この一級畑面積の多さは、他の有名なアペラシオンの一級畑の面積、例えばジュヴレ・シャンベルタンの86ha、シャンボール・ミュジニーの61haを大きく上回り、ニュイ・サン・ジョルジュの147haとほぼ同じということでお分かりいただけると思います。

 サヴィニー・レ・ボーヌがAOCに認定されたのは1937年、赤・白とも認められていますが、白ワインの生産は1割程度で、赤ワイン中心のアペラシオンと言うことができます。

 ロワン川は一級畑を右岸のボーヌ側と左岸のペルナン・ヴェルジュレス側とに二分し、ボーヌ側の斜面にあるマルコネ、ジャロン、ナルバントンといった畑からは豊作年では村名格のヴォーヌ・ロマネや上等のポマールを飲んでいるような濃厚・濃密なワインが造られます。一方、ペルナン・ヴェルジュレス側の斜面に渡るとセルパンティエール、オー・ゲット、オー・ヴェルジュレスといった畑となり、テロワール固有の風味が感じられる違ったサヴィニーとなります。

 また、「ブルゴーニュワイン大全」の著者ジャスパー・モリス氏は、その著書のサヴィニー・レ・ボーヌの説明の中で、次の言葉を引用し、サヴィニーのワインの秀逸さを紹介しています。

「大昔は、サヴィニーの大愛好家がいて、シャトー・ド・サヴィニーの玄関には[Les Vins de Savigny sont theologiques,nourrissants et morbifuges(和訳:サヴィニーの葡萄酒は神々の飲み物にして、滋養に富み、身体の優れざる時も飲むべし]との一文が刻んである。」

 サヴィニーの両岸の丘の一級畑のワインは若いうちでも楽しめますが、優れた生産者のワインは少なくとも10年はもつようにできていて、その間ずっと複雑さを増し、ブーケを深めていくとされていますので、良い造り手が良い畑で造るワインは大変お買い得で、特にロワン川左岸(ペルナン・ヴェルジュレス側の北斜面)の中腹に位置する南向きの一級畑はコストパフォーマンスの良さではブルゴーニュでも有数のもので、お薦めです。

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