ポムロールのル・パンを所有するジャック・ティエンポン氏が目指す[サン・テミリオンのル・パン]

 [ル・パン(松の木)]に対し[リフ(櫟の木)]の名称を付けた2011年初ヴィンテージの年産約1万本の稀少ワイン

【シャトー・リフ】(ファミーユ・ティエンポン)

   〜Chateau L’If (Famille Thienpont)〜


 

 ワイン愛好家が、『ボルドーの頂点にあり、最も官能的で、高価なワインは?』と問われれば、五大シャトーを抑えて、ポムロールのシャト・ペトリュスとシャトー・ル・パンの二つの名を挙げられる方が多いでしょう。とりわけ、19世紀からの歴史を誇るペトリュスに対し、ル・パンは1979年設立のいわば新参者で、初ヴィンテージは1982年ながら、1990年台にはボルドーのスターワインの仲間入りを果たしており、名声を得るまでの驚異的な早さは「ポムロールの奇跡」と語り継がれています。

 このル・パンを所有するのが現在ティエンポン家を率いる一人ジャック・ティエンポン氏で、ティエンポン家は、これ以外にもヴュー・シャトー・セルタンやシャトー・ピュイグロー等を所有する大実業家一族です。

 シャトー・ル・パンの歴史はまだ浅く、1979年にヴュー・シャトー・セルタンを所有するベルギー出身の酒商ティエンポン家の一人ジャック・ティエンポン氏が、ポムロールのヴュー・シャトー・セルタンの隣の小さな畑を購入したところから始まります。ティエンポン家は、この時既に隣のヴュー・シャトー・セルタンを所有しており、この畑もヴュー・シャトー・セルタンに加えることも検討されましたが、合意に至らず、一族の一人「ジャック・ティエンポン」氏が購入しました。シャトー名は、敷地の内に植えられていた松(フランス語で[ル・パン=Le Pin])に由来しています。

 1979年がファースト・ヴィンテージで、当時のワインの価格は約100フランでした。これは、同じティエンポン家が所有する隣の「ヴュー・シャトー・セルタン」よりも安価な位置付けでした。

 しかし、1982年のル・パンが専門誌ワインアドヴォケイトで100点満点を獲得すると、一気にスターダムを駆け上がり、生産量の少なさも手伝って、価格は高騰、同地区のスター・ワイン「シャトー・ペトリュス」を凌ぐ人気と価格にまでなり、このことがいわゆるシンデレラ・ワインやガレージ・ワイン・ブームのきっかけになったと言われています。

 

 そのル・パンのオーナーであるジャック・ティエンポン氏が、[サン・テミリオンのル・パン]を目指して設立したのが[シャトー・リフ]です。「リフ(L'If)」とは櫟(イチイ)の木の意味で、ここにもル・パン(松の木)の名称を持つシャトー・ル・パンを目指す意気込みと熱い想いが感じられます。

 ジャック・ティエンポン氏は、2010年にシャトー ・トロロンモンドが位置するパヴィの丘の真下の台地に畑を持つシャトー・オー・プランテ[Chateau Haut-Plantey](旧名称:シャトー・ラ・ブイグ[Chateau La Bouygue])を購入します。祖父のジョージ・ティエンポン氏が1921年にシャトー・トロロンモンドを購入したものの、世界大恐慌の影響で1935年に手放した経緯もあり、シャトー・トロロンモンド近くの畑の購入は、新たな挑戦という目的だけでなく、「ティエンポン家の過去の歴史への思い入れ」あるいは「偉大な祖父へのオマージュ」といった側面もあったようです。その後周辺の別の畑も買収し、現在の所有畑は14区画8haで、70%のメルローと30%のカベルネ・フランが植えられており、このブレンドにより造られるリフは、生産量約1万本の稀少ワインです。なお、一般的にはシャトー・リフと呼ばれていますが実際は[ル・パン]同様シャトー名の付かない[リフ]です。

 下に、航空写真とシャトー・トロロンモンドの位置する丘からシャトー・リフ方面を望む写真を掲載していますので、ご覧下さい。リフのエチケットに描かれた[イチイの木]が見えます。

 サン・テミリオンには10年毎に更新される有名なサン・テミリオンの格付け制度がありますが、数あるサン・テミリオンのシャトーの中で、[シャトー・テルトル・ロートブッフ(ファミーユ・ミジャヴィル)]を筆頭に、格付けに頼らず独自の道を歩むシャトーは数多くあり、シャトー・リフもこの格付けには興味がないようで、格付け申請をすることもなく、単なる「AOCサン・テミリオン」にとどめています。シャトー・リフの運営を任されているジャックの甥シリル氏は、『「私たちはワインに分類(Classfication)が必要だとは考えていません。ラベルに分類を書かなくても、人々がこのワインの素晴らしさを感じてもらえることを願っています。』と述べています。

 ちなみに最新の2022年サン・テミリオン格付けでは、これまで別格の地位にあったシュヴァル・ブランとオーゾンヌ、そしてそれに続く位置にいたアンジュリュスの3シャトーが格付けの審査基準を不服として格付けから撤退しており、格付けの意義は半ば失われたような状況にあります。

 リフの最初のヴィンテージは、2010年ですが、これは販売されず、2011年から市場にリリースされています。ル・パンを購入した時と同様、旧所有者の葡萄畑は立地こそ優れていたものの、貧弱なものでしたが、葡萄樹の大半を植替え、投資により種々の改革を進め、ル・パンで培った技術と情熱を注ぎ込むことで、リフはヴィンテージを重ねるごとに輝きを増し、それにつれて評価も年々高まり、[サン・テミリオンのル・パン]と称されるようになっており、着実にル・パンの後を追っています。

 また、2017年ヴィンテージからは、セカンドワイン[コリーヌ・ド・リフ(Collimes de L'If)]のリリースを開始しており、葡萄の選別を厳しくし、ファーストのリフに、より高品質の葡萄を使うことでリフの品質とブランド価値を守っています。

【ワイン雑学豆知識:ティエンポン家について】

 ティエンポン家はベルギー出身のフランドル系の一族で、カミーユ・ ティエンポンが 1842 年にワイン商のビジネスをフランドル地方のアルデンヌ地方のエティホヴェに拠点を置いて始めたのがその始まりです。

 その後、20 世紀の初めまでに、ワインビジネスはジョルジュ・ティエンポンによって運営され、1921 年にサン ・テミリオンのシャトー・ トロロンモンド、次いで、その 3 年後1924年にはポムロールの壮大なヴュー・シャトー・セルタンを手に入れることに成功しました。

 しかし、1930 年代の世界大恐慌でのウォール街の崩壊により、ジョルジュ・ティエンポンはトロロン・モンドの売却を余儀なくされましたが、ヴュー・シャトー・セルタンでワイン造りを続け、第二次世界大戦と 1956 年の大霜の困難にも関わらず、1940 年代と 1950 年代にいくつかの素晴らしいワインを生産しました。

 そして、 1957年に、ジョルジュは彼の子供たちに遺産を保全するために家族会社を設立しました。これが今日まで続く、[ファミーユ・ティエンポン]です。

 ジョルジュには13人の子供がいましたが、今日、ティエポン家の遺産を引き継いでいるのはジョルジュの孫と曾孫達で、彼らは緊密に協力して、ティエポン家の発展に努めています。

 ジョルジュの孫の一人ジャック・ティエンポンは、 1979 年にポムロールの小さなル・パンのオーナーになり、ジョルジュの子レオン(ジャックの叔父)の息子アレクサンドル(ジョルジュの孫で、ジャックの従兄弟)は現在、ヴュー ・シャトー・セルタンを経営しています。また、ジョルジュの孫の一人ニコラ(ジャックの従兄弟)がシャトー・ピュイグローのワイン造りを引き継ぎ、ニコラの息子シリル(ジャックの甥)はサン・テミリオンシャトー・リフ(ジャック・ティエンポンが2010年に購入)の管理をしています。

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