マルサネ・ロゼと個性豊かな赤で有名なコート・ドール最北の村名アペラシオン
【マルサネ 〜Marsannay〜】マルサネはコート・ドール最北の村名アペラシオンで、コート・ドールの北の玄関口に位置していることから、"コート・ド・ニュイの黄金の扉"[La Porte d'Or de la Cote de Nuits]とも呼ばれ、ブルゴーニュで唯一、赤・白・ロゼの三つのアペラシオンを持っていることでも知られています。
マルサネのAOC認可は1987年で新しいアペラシオンですが、葡萄栽培の歴史は古く、既に西暦530年頃にはこの地で葡萄栽培がされていた記録が残っています。また、中世からは、ブルゴーニュ大公とフランス王家も畑を所有していたことから、その名残として、今でも「王のクロ(クロ・デュ・ロワ)」というクリマが残っており、これら幾つかのクリマから造られる赤ワインはルイ14世や16世の食卓にも上り、19世紀までは現在のグランド・クリュに匹敵するものでした。
マルサネの葡萄栽培区域は下のAOC地図の通り、シュノーヴ村、マルサネ・ラ・コート村、クシェ村の三つの村の標高260m〜320mの斜面に広がっています。
マルサネには一級畑はありませんが、斜面中腹から上方に赤と白のマルサネを産み出す村名格畑(上地図の黄色部分)が連なり、ロゼ用の畑(上地図の桃色部分)はその下の斜面下部と、斜面最上部の畑に栽培が指定されています。
赤・白・ロゼ、それぞれの生産比率は赤67%、白18%、ロゼ15%ですが、わずかな例外を除き、マルサネで本物の個性と値打ちがあるのはやはり赤ワインです。上述のクロ・デュ・ロワ[Clos du Roy]を始め、レ・ロンジュロワ[Les Longeroies]、レ・グラス・テット[Les Grasses Tetes]、ル・ボワヴァン[Le Boivin]等の秀逸な村名格畑は、区画名を付け、単独で仕立てられており、将来の一級畑の有力候補です。マルサネの赤ワインの色調は濃く、野生の桑の実やプルーン、カシスのアロマが特徴的で、口当たりはしなやかだがタンニンは強く、近隣の大銘醸地ジュヴレ・シャンベルタンに似通ったものがあります。
マルサネに本拠地を持つ最も有名なドメーヌがブリュノ・クレールです。ブリュノ・クレールは、ジョセフ・クレールの孫にあたりますが、かつて祖父が造った偉大なドメーヌ、クレール・ダユを継承し、本拠地マルサネ以外に多くの銘醸畑を所有しており、ブルゴーニュにおける別格の特級畑シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ、唯一の生産者であるモレ・サン・ドニ側のボンヌ・マール、モンラッシェと並び称される白ワインのコルトン・シャルルマーニュ、そして僅か5名の所有者しかいないブルゴーニュ最高の銘醸一級畑ジュヴレ・シャンベルタン一級クロ・サン・ジャック等、実に絢爛豪華なラインナップを誇ります。
このような煌びやかなドメーヌ・ブリュノ・クレールのラインナップ中にあって、堂々と看板ワインの一角を占めているのが、「マルサネ・ロゼ」です。このワインはドメーヌ・クレール・ダユの創設者で、ブリュノ・クレールの祖父のジョセフ・クレールが1919年に造り出したもので、もうじき100年の記念ヴィンテージを迎える伝説のロゼ・ワインです。
ジョセフ・クレールが1919年に初めて仕込んだ8樽のマルサネ・ロゼの全量をディジョンのレストランのトロワ・フェザンが買い上げ、供したことで、「食事との相性が非常に良い”マルサネ・ロゼ”」が評判となり、それ以降マルサネの他の生産者もロゼを造り始め、マルサネの名を広めたのです。その頃マルサネはまだAOC認可の前でしたが、1965年に既に「ブルゴーニュ・ロゼ・ド・マルサネ」という呼称が与えられていました。
マルサネのもう一つの著名生産者が「ドメーヌ・バール」で、このドメーヌも上述のクレール・ダユの系譜に連なるドメーヌです。
ジョセフ・クレール死後の相続問題で、クレール・ダユが分裂した時に、次女の持分がネゴシアンのルイ・ジャドに売却され、三女は同じマルサネのドメーヌ・バールに嫁いだことから、その持ち分がドメーヌ・バールにもたらされたため、様々なマルサネのキュベの他、ボンヌ・マールやシャンベルタン・クロ・ド・ベーズの特級畑を所有しているのです。
また、僅か5名の所有者しかいないブルゴーニュ屈指の一級畑クロ・サン・ジャックにおいて、ブリュノ・クレールとルイ・ジャドが隣接して夫々1haのパーセルを所有していることもこのためです。ドメーヌ・クレール・ダユのかつての大きさが分かりますね。
その他マルサネ村に近いジュヴレ・シャンベルタン村の造り手であるシャル・ロパン、ジャンテ・パンショ、ドニ・モルテ等がマルサネの優れたワインを造っており、ヴォーヌ・ロマネのメオ・カミュゼもネゴシアン部門(メオ・カミュゼ フレール・エ・スール)でマルサネをリリースしています。
現在マルサネには一級畑はなく、多くの造り手がINAOに対して一級畑の申請書類を提出しているようですが、一級の栄誉が与えられるのはまだまだ先のようです。
ジャスパー・モリス氏はこのあたりの事情を著書「ブルゴーニュワイン大全」の中で次のように記しています。 「INAOは昇格候補となっている数多い小区画を一つの名前にまとめてしまいたいと考えているようだ。しかし、これは、全ての畑は独自の個性を持つという原産地呼称のコンセプトに合致しないし、造り手の中には既に特定の畑名をラベルに記して世間にアピールしてきた者もおり、一級畑がひとまとめにされてしまうとその努力が無に帰してしまう。地元の権力争いと遅々として進まないお役所仕事があいまって、一級の文字をラベルに載せたがっている造り手たちは当分待たされることだろう。」
しかし、近年ブルゴーニュ・ワインの価格高騰が続く中で、比較的手頃な価格で入手できるマルサネの秀逸な村名ワインには注目が集まっており、ブルゴーニュ・ワイン愛好家にとって「知っておきたいアペラシオン」の一つです。
【ドメーヌ・ブリュノ・クレールのワインはこちらからどうぞ】